C1では音場は奥にできる つかみどころのない鵺のようなアンプだ。
たとえばオーディオ機器を試聴する場合、確認すべきポイントはだいたい決まっている。
定位は明確か? 音像にリアリティはあるか?(シャープさ、大きさ、楽器音の質感)、音場は広いか?(奥にできるか/前にできるか)、空間表現は立体的か? 上下左右だけでなく奥行きをよく表現するか? 音色は暖色系か、寒色系か? トランジェントはいいか? 解像度は高いか?(帯域別ではどうか?)、などなど。
だがこのアンプの場合、「これだ」という明確な個性を割り出しにくい。今まで我が家のDYNAUDIO CONFIDENCE C1のほか、FOSTEX G2000、B&W CM5、PMC TB2iなどと組み合わせて試聴したが、セットごとに鳴り方がかなりちがうからだ。
たとえば同じBLADELIUSのCDP、Freja mark IIを使いC1と組み合わせると、音像がズドンと前に飛んでくる鳴り方ではない。ふんわり広がり、音場は奥にできた(※1)。C1はアンプの個性に合わせて柔軟に鳴るから、これがThor MkⅡの正体だろうと判断した。
だがCM5とESOTERIC X-05の組み合わせでは正反対だった。ギターやピアノ、ヴォーカルなど、特に中音域がグイグイ前に出る。とすればこれはCM5固有の色に見えるが、それにしてもあまりに鳴り方が逆なので断定するのがむずかしい。
空間表現はあまり得意じゃない? ほかにもグレーなポイントはある。たとえばC1と組み合わせたときは分離感がいまひとつで、音像がたがいにまとわりついていた(※2)。C1はこんな鳴り方はしないから、こりゃアンプの特徴としか思えない。
だがCM5と組み合わせると少なくとも楽器の分離はよかった。ただし演奏者の立ち位置が問題で、複数の楽器音が両スピーカーの中央付近でなんとなく団子になる。演奏者それぞれの位置が三次元的にわかるような鳴り方ではない。
この時点で、立体的な空間表現はあまり得意じゃないアンプなのだろうと考えた。(もちろん組み合わせるCDPによっても音場感は変わるから即断できないが)
では個人的にいちばん気になる低域はどうか? C1とのコンビでは低音が妙にやわらかく、ほんわか、のほほんと鳴っていた(※3)。いや、もちろんこれはこれでアリだ。聴く音楽によっては独特の味が出るだろう。
しかし個人的な好みでいえばグッ、グッと食い込んでくるダイナミズムに欠け、わたし的には不満な低音だった。ちなみにC1はアンプ次第で質の高い極上の低音を聴かせるスピーカーである。
では一方、CM5で聴く低音はどうか? 今度は打って変わって、「おー、兄弟機・CM1のブーミーな低音とはダンチじゃん」てな感じだった。CM1の曖昧な低音とちがい、コリッとした芯がある。輪郭もほどよく立ち、ベースの音階もはっきり聴き取れた。
このへんは組み合わせたCDP(ESOTERIC X-05)の個性が出ている感じはするが、それにしてもC1で聴いた低音とはちがいすぎる。
う~ん。
アンプに色がないとスピーカーの特徴がそのまま出る もちろんスピーカーがちがえば鳴り方が変わるのは当然だ。だが、どうも「あり得ない変わり方」をしている感じだ。
たとえばアンプに色づけがない場合、スピーカーの特徴が脚色なしでそのまま出る。すると当然、スピーカーによって鳴り方はかなり変わる。
だが今回はどう考えてもこのパターンではない。(※1)についてはスピーカーの特徴を素直に出している感じだが、(※2)や(※3)はC1の個性や力不足ではないからだ。しかしアンプがC1を駆動し切れてないということもないだろうし、結局よくわからなかった。
なおFOSTEX G2000との組み合わせは短時間の試聴だったため参考外だが、C1とは対照的に「すごくいい」と感じた。またPMC TB2iはスピーカー自体のキャラが濃いので、アンプの目利きとしてはあまり参考にならない。
翳りのあるヨーロッパのピアノトリオがハマる さて結論だ。BLADELIUS Thor MkⅡはどんなアンプか? 今回はちとむずかしいが、少なくとも解像度に関してはなかなか高い。
だが生真面目な国内メーカーのアンプとちがい、定規で測ったような物理特性の優秀さで聴かせるアンプではない。「それより音楽を聴けよ」と語りかけてくるような感じだ。雰囲気で聴かせるといえばネガティブに誤解されそうだが、音がふんわり辺りに満ち、言葉通り「音楽の演出者」という印象である。
その証拠に静謐感のあるしっとりしたヨーロッパのピアノトリオがよく合った。さすがにヨーロッパ・スウェーデンの機材である。音楽性は、お国柄によくあらわれる。
(脂っこいアメリカのピアノトリオでなく)繊細なヨーロッパのピアノトリオがハマるあたり、どちらかといえば動的な表現より、静的な描写のほうが得意な感じだ(ただしスピーカーによる。文末の追記参照)。たぶんソースがアンプのキャラに合えば気持ちよく聴けるタイプなのだろう。残念ながら私がよく聴くソースはあまりピンと来なかったし、C1との相性もいまひとつだったが。
それにしてもオーディオってやつは本当に好みの問題だなぁ。
(追記) 2011年7月19日付
その後もあれこれ思考してみたが、C1が(※2)や(※3)のような鳴り方をしたのは原因不明であるものの、やはり基本的にはスピーカーの個性が脚色なしで素直にそのまま出るアンプだ思う。
その証拠にひんやり冷たく固い音でカッチリ鳴ったCM5に対し、(本文では割愛したが)PMC TB2iはやわらかく暖かみのある音色でエネルギッシュに熱く歌った。同じアンプで鳴らしてこれだけ音が対照的なのは、スピーカーの個性がよく出ているからにほかならない。
すなわちこのアンプは何も考えずに好みのスピーカーを組み合わせるだけで、簡単にオーナーの好きな音が出せるタイプだ。スピーカーとアンプの相性や組み合わせたときの音の変化をあれこれ考えなきゃならない機器は多いが、こういう素直なアンプは大助かりである。
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