B&W 802 Diamond、量感はあるが軽やかになった低音の秘密

目の前にバンドが浮かび上がる
「まるで目の前で楽器が鳴っているかのような」という表現には、ふた通りの意味がある。
ひとつは鳴り方が立体的で、バンドの各メンバーの立つ位置がわかる、目の前にバンドがいるように感じる、というニュアンス。もうひとつは楽器の音の質感にリアリティがあり、本物の楽器が鳴っているように聴こえるという意味だ。802 Diamondは、この両方の要素を満たしている。
たとえば楽器の数が多いStefano Bollani(イタリア人ジャズ・ピアニスト)のアルバム「I Visionari」では、クラリネットやサックス、フルート、バイオリンが辺り一面の空間に散らばり、おもちゃ箱をひっくり返したようなにぎやかさだった。
それぞれの楽器があるべき位置にバチーッと定位し、ただっ広い音場が四方に広がる。楽器の分離も非常にいい。また音の鮮度がハンパでなく、すごい切れ味の音像が勢いよく跳ね回る。
たとえばオーストリアのジャズギタリスト、Wolfgang Muthspielの「Real Book Stories」(2001年)を再生させると、Marc Johnson(b)とBrian Blade(dr)のリズムセクションがエネルギッシュに絡み合い、暴虐の限りを尽くしていた。「上には上がある」という世の中の構図を見せ付けられるような圧倒的な音だった。
旧802Dより低音のトランジェントがいい
かの旧802Dは、重くて遅い「ドッカァ~ン」という低音と耳をつんざく高域がトレードマークだった(私的には)。だが802 Diamondは800シリーズの重々しさや量感はそのままに、低音のトランジェントがよくなっている。旧802Dよりやや軽快だ。
いや、もちろんFOSTEXやDYNAUDIOのようにキレるタイプの低音ではない。だがゆったり鳴るのが特徴のB&Wにしては「もたった」ような感じはない。これだけの太さと量感がありながら、この低音の処理のしかたはすごいなと感じた。
例えるなら、下半身を徹底的に鍛えたお相撲さんだ。ガタイがデカくて鈍重そうなのに、いざ動くと足元のフットワークが妙に軽い。それが図体の大きさに似合ってない、みたいな感じだ。(いや、ヘンな表現だがほめてます)
一方、高音はどうだろうか。高い音に過敏な私は鋭い響きに弱いのだが、802 Diamondのダイアモンドツイータは大丈夫だった。もちろんB&Wらしくシンバルのアタック感は強いが、ややオーバーな表現ながら耳障りではない。
全体の帯域バランスを見ると、ズゥーンと沈む低域からカツーンと伸びる高域まで、生きた音の出るレンジがとても広い印象だ。
アンプを変えると敏感に反応する
実は今回は日取りとショップ、機材を変え、いくつかのパターンで10回ほど802 Diamondを聴きくらべてみた。組み合わせは以下の通りだ。
【セットA】
・プリメインアンプ:GOLDMUND TELOS 390.2、CDP:LINDERMANN 822。
【セットB】
・プリ:OCTAVE HP500SE、パワー:Mark Levinson No532H、CDP:同上。
【セットC】
・プリ:Mark Levinson No320S、パワー:同上、CDP:同上。
【セットD】
・プリ:GOLDMUND MIMESIS 37 Signature 、パワー:GOLDMUND TELOS 200、CDP:ESOTERIC K-01
セットAとセットBは、プリメインとセパレートの聴きくらべだ。またセットBとセットCはプリの比較に、セットDでは機材全部の相対評価になる。結論的にいちばん好みだったのは、OCTAVE HP500SEのセットだった。
実は以前、同じOCTAVEのV80で旧802Dを聴いたことがあるが、このときは音像が団子になってしまって唖然とした。ヴォーカルは両スピーカー間の中央に位置するが、あとはスピーカーそのものからしか音が出てない。空間が鳴ってないのだ。ソースによってはバスドラとスネア、ベースの音がセンターにくるが、分離がいまいちで団子になる。
だがHP500SEのセットは音の分離とピンポイントの定位が圧倒的だった。空間表現もよく、鳴り方が非常に立体的だ。
一方、セットAのGOLDMUND TELOS 390.2もプリメインながら健闘し、あの巨大な802 Diamondを十分鳴らしていた。Telos 390.2の駆動力は相当なものだ。個人的な好みでいえばこのセットが2位、いや、1.5位くらいの手ごたえだった。
かたや純正レビンソンのセットCは、別のスピーカーかと思うほど音がスッキリしていた。今回試した中ではいちばんスコンと抜けた感じだ。そのためノリも飛びぬけて軽やかだが、反面、燃えるような熱さはない。そこが人によっては淡白で物足りないと感じるかもしれない。
最後にいちばんハイエンドなセットDの低音は、最初の1小節を聴いただけで帰りたくなるほどイヤな響きだった。音が細めのベーシスト、たとえばMarc Johnsonなら、まあ聴ける。だがズドンと音が太いDave Hollandだと、ブーミーでとても聴く気がしない。たぶんクラシックが得意なアンプなのだと思うが、正直、好みとかけ離れていた。
さて結論だ。このスピーカーは組み合わせる機器を変えると敏感に反応し、鳴り方がずいぶん変わる。その証拠にセットCとセットDでは低音の出方が正反対で、とても同じスピーカーとは思えなかった。
ネット上では802 Diamondの評価は好、悪、まっぷたつに分かれている。これはひとつには各人が試聴に使った機材が異なるため、みんなが「ちがう音を聴いていた」というのがあるかもしれない。実際、私の場合もGOLDMUNDのセパだけを聴いていたら、「こんなスピーカーのどこがいいの?」という印象のままだったろう。
大見得を切る歌舞伎役者みたいなスピーカー
まとめよう。ズドンと量感のある雄大な低域と、激しく自己主張するアタック感の強い高域、バチバチの定位感や絵に描いたような空間表現。結論をいえばこのスピーカーは、ド派手な踊り方をして最後に大見得を切る歌舞伎役者みたいなスピーカーだなと感じた。「お見事ッ」、「よっ、成田屋ッ」みたいな感じだ。
この大仰な表現が個人的に好みか? といえば「No」になる。だが客観的にはこのクオリティは認めざるを得ない。すなわち「これにどう文句をつけろって言うんだ?」、「いえ、もうお腹いっぱいです」。そんな感じだ。あとはこの音が自分の好みにさえハマれば、「買い」の一手だろう。
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