ONKYO A-5VL、精密画のように写実的な音を聴く

■絵に描いたみたいに風景が浮かぶアンプ
スピーカー(FOSTEX G1300)から出てくる音を聴きながら、「この価格帯(実売6万円)でこの精密レベルの音を実現したアンプはほかにあるだろうか?」と考えてしまった。「絵に描いたような」という言葉がふさわしい、写実的な表現をするアンプだ。
解像度が高く、エッジの利いたハッキリくっきり派。シャープで低域の締まった甘さのない音だ。とにかく各楽器の分離感がよく、定位感や音場感もいい。また音場が広く、立体的な表現がうまいアンプである。
■スピーカーの選び方ひとつでどんな鳴り方もする
組み合わせた機器は、CDプレーヤーにONKYO C-S5VL。スピーカーはメインにFOSTEX G1300。ほかにもB&W 685やONKYO D-312Eなどでも聴いてみた。
スピーカーをG1300から685に替えると低域が豊満になるが、A-5VLの基本的な帯域バランスはONKYOらしいフラットだ。A-1VLみたいな元気モリモリ系ではないにせよ、思ったよりもエネルギー感がある。単に繊細なだけのアンプじゃないところを聴かせた。
スピーカーをあれこれ替えてみるとわかるが、このアンプはスピーカーの選び方ひとつでどうとでも自分好みの音になる。アンプ自身に色がないから、何も考えずとにかく好きな音の出るスピーカーを組み合わせるだけでいい。
たとえば70年代の泥臭いR&Bやスワンプロックを聴きたければ、JBLやB&W 685をセットしよう。また繊細でデリケートなECM系ジャズを堪能したいなら、FOSTEX G1300や同GX100でバッチリだ(しかし今回判明したがG1300って実は泥臭い系統もOKだった)。そして実際に組み合わせて聴いてはいないが、たぶんDYNAUDIOのEXCITE X12なら普通にどっちもいけるだろう。
また今回はONKYO D-312Eでもじっくり聴いたが、空間表現が巧みでちょっと見直したけれども……やっぱり前者のソースがダメで個人的には肌が合わない。とにかく低音の質が好みじゃなかった(ここは主観でございます)
■SONY TA-F501と対決させてみた
さて相対評価をするため、SONY TA-F501とも聴きくらべてみた(CDP/SONY SCD-X501、SP/同SS-K10ED)。するとLittle Feat「Dixie Chicken」のイントロが1小節流れただけで、「あっ、こっちのセットの方が合ってるな」とわかった。スピーカー(SS-K10ED)の色なのかもしれないが、低音の手ごたえ、「打撃感」がちがうのだ。このへんで結果として「熱い音」になるかどうかが分かれるのだろう。
例えばジャズも聴いてみたが、TA-F501はサックス抱えたMichael Breckerの熱いツバが「ペッ、ペッ」と飛んできそうな弾む感じがある。Jeff "Tain" Wattsのドカドカうるさいドラムの勢いもよく出ていた。対するA-5VLはあくまで冷静に、客観的・分析的に鳴ってる感じだ。もし聴く音楽によって両者を使い分けるなら、A-5VLは前述した2種類のソースのうち、やはり静かなECM系ジャズの方だろう。
参考までに今回試聴したCDのうち、A-5VLにぴったり合うと感じたアルバムを以下にあげておく。
(1) Keith Jarrett 『Standards,Vol.1』
(2) Wolfgang Muthspiel 『Real Book Stories』
(3) Jay Epstein 『Long Ago』
(4) Chick Corea 『Dr.joe』
(5) Pat Metheny/Brad Mehldau 『Metheny Mehldau』
(6) Pat Metheny Trio 『Day Trip』
A-5VLだけ聴いてるぶんには「意外とエネルギー感がある」、「案外、何にでも合う」と思うのだが、他機種と聴きくらべると機器固有の個性がよくわかる。やっぱり1機種だけを単独で聴いて判断する「絶対評価」ってむずかしい。
結論としては、正確さ・緻密さのA-5VLに対し、熱さとノリのTA-F501てなところか。いや、TA-F501にはデジアンらしい緻密さや正確さもあるのだが、なにより既存のデジアンにはない独特のノリがある。これってとても大きな武器だ。
各楽器の分離感や定位感、空間表現で選ぶならONKYO A-5VL、それらの要素をひと通り押さえた上で「音楽のダイナミズムを楽しみたいんだ」というならSONY TA-F501、みたいな目利きのしかたができそうだ。
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