ATC SCM19、暴力的なまでにアグレッシヴな低域の魔力

■アンプを選ぶ気まぐれ野郎
店頭でSCM19を初めて聴いたとき、組み合わせたアンプはLUXMAN L-550AIIだった。「アンプはこれくらいのクラスかな?」となんとなく選んだのだが、信じられない音が出た。
ベースラインがボワァ~ンとボケて実体感がなく、低域がスカスカのスポンジケーキのよう。音が出ているだけでまるでエネルギー感がなく、単に鳴ってるだけだった。「こんなスピーカーを売っていいのか?」と思ったほどだ。
だがアンプをひとクラス上のLUXMAN L-590AIIやMcIntosh MA6300に替えると、たちまち別人28号(死語)に生まれ変わった。あのときの驚きといったらない。
ベースがグリグリ空間をえぐる。バスドラとベースが小気味よくグッ、グッと食い込んでくる。暴力的なまでにアグレッシヴな音に変身した。
■中低域の密度感と弾力がすばらしい
周囲の空間にはぎっしり音符が詰まり、ムッチリとした密度感がある。そのため音自体は素直なのに、こってり濃密で脂っこい。低・中・高域のバランスもよく、特定の帯域が突出した感じはない。全帯域がストレートにぐいぐい前へ出てくる。
ベースも十分な量感で、ムチのようにしなる弾力がある。音の輪郭もきれいに出る。ただし輪郭だけがパキパキに際立つような薄い音ではなく、輪郭の内側の「お肉」の部分にもしっかり中身が詰まっている。ほとんどベースアンプから出る生の音と変わりない。
音の芯にも手応えがある。ドラマーがシンバルを叩くと、シンバルの打点に音の芯がグッと宿り、そこを中心に周囲へ響きが広がって行く感じが伝わってくる。思わずカラダが踊り出してしまいそうな躍動感だ。
■モニター系だが我を忘れて熱くなるヤンチャ坊主
このスピーカーを聴くと70年代スワンプ・ロックの徒花、Jesse Ed Davisの姿が浮かんでくる。落ちぶれ果て、最後は安アパートの一室で誰に知られるともなくドラッグのオーバードースで死んだ。アメリカ・インディアンの血を引くギタリストだ。SCM19には、彼のダルでワイルドな世界がよく似合う。立ち上るオクラホマ砂漠の土ぼこりや、汗の臭いを音で表現できるスピーカーである。
ATCはモニター系といわれるが、FOSTEXのような「聴いても楽しくない」という意味でのモニターとはちがう。ただひたすら仕事のため、正確にモニタリングするためだけの冷徹なモニターではない。仕事で鳴っているのに思わずアツくなってしまうヤンチャ坊主だ。ロックとファンク、R&Bのために生まれてきたような、ファンキーで熱いスピーカーである。
【使用上の注意】
高価で駆動力のあるアンプであればあるほど、すばらしいパフォーマンスを発揮する。だがハンパなアンプではまるで生気のない、死んだような音になる。「なぜこんな音しか出ないんだ?」と感じたらアンプを疑え。