fc2ブログ

解像度ってそんなに重要か?

 オーディオ系の掲示板や専門誌、あるいはショップでもそうだが、ふたこと目には「解像度が高い」てな物言いが口グセの人は多い。「解像度が高い」と言っておけば、それだけでオーディオ機器の優劣を言い切ったようなつもりの人もいる。

 たとえば秋葉原のだれでも知ってる某有名オーディオ専門店で、気になるインシュレータがあったので店員さんに聞いてみた。

私「この製品にはどんな特性があるのですか?」

店員さん「解像度が上がります」

私「解像度が高くなる以外の効果はないのですか?」

店員さん「…………」

 店員さんは絶句し、それ以上なにも言えなくなった。

■解像度の話しかしない店員さん

「解像度が上がる」と言っておけば、たいていの客は納得するのだろう。だからその店員さんには、それ以上の分析力もなければ語彙もない。必要ないから身につかないのだ。皮肉な話である。

「政治家は有権者を映す鏡である」てな言葉があるが、さしづめ「オーディオショップの店員さんは、オーディオマニアを映す鏡である」みたいな話かもしれない。

 このとき私は低域を締めるための方法や機材を探していた。だから趣旨を言うと、その店員さんはたちまち対応不能に陥ってしまった。たまたまその人がそうだっただけで、すべての店員さんが同じではないのだろうが。

■ドラムのスネアがみんなリムショットに聴こえる

「解像度がすべてか?」論に話をもどそう。ピュアオーディオの機器では違いがわかりにくいので、イヤホンを例にしてみる。私はヘッドホンの方はSENNHEISER HD650と同HD25-1IIGRADO SR325iを所有している。iPodにはHD25-1IIを使っているが、ヘッドホンだから夏場は耳が灼熱地獄になる。

 で、カナル型のイヤホンを買うために、一定水準をクリアしているとおぼしき製品を試聴して回ったことがある。ありましたよ、すごいやつが(笑)。米Etymotic ResearchのER-4Sである。

 こやつはネット上では「解像度が高い」、「フラットでソースを忠実に再現する」とえらい評判だ。熱烈なファンも多い。で、聴いてみたのだが、とても音楽を楽しめるようなシロモノじゃなかった。

 ドラムのスネアがみんなリムショットに聴こえるのだ。

 というか金だらいを叩いているかのような、と言ったほうがわかりやすい。スネアが金属でできているようにしか聴こえないのだ。実際、解像度は高いのだが、あれのどこが「ソースを忠実に再現」しているのかよくわからない。あんなイヤホンで音楽を聴く気にはとてもなれない。

 ER-4Sを耳に挿し、「うん、解像度が高いな」などと悦にいってる図を想像するとこっけい至極だ。や、ひょっとしたらER-4Sは私が聴かないクラシックがハマるのかもしれないし、音は好みの問題だから持ち主が満足してるなら第三者がとやかく言う話ではないけれど。

■解像度がいる音、いらない音

  これはイヤホンだけの話じゃなく、当然ほかのオーディオ機器にもいえる。たとえば私は解像度が高いとされるDYNAUDIOのスピーカーを持っている。だが我が家のアンプとCDプレーヤー、スピーカーケーブル、電源ケーブルにはそれぞれ別の趣向があり、DYNAUDIOの解像度の高さを強調するような方向でシステムを組んでるわけじゃない。

 低域の解像度が高いDYNAUDIOの特性を生かし、その低域に音の芯や腰、キレ、躍動感、適度な量感が出る機材を組み合わせている。実際、出てくる音はその通りだ。私はもともと70年代のニューオーリンズ・ファンクやスワンプ、R&Bを聴くためにオーディオを新調したから今の音には満足している。

 汗が飛び散る70年代のニューオーリンズ・ファンクを聴きながら、「解像度が高くてすごい」とか、「定位と音場感が抜群だ。空間表現がすばらしい」などと言う人はいるのだろうか。いや厳密にいえばいそうだが(笑)、少なくとも私の聴き方とはちがう。

 私にとってのオーディオはそれ自体が目的ではなく、音楽を聴くための手段にすぎない。だから70年代のニューオーリンズ・ファンクが気持ちよく聴ける音をオーディオで鳴らしたい。すると当然、解像度より躍動感とかキレや腰、なによりソースの熱気が伝わってこなければ話にならない。

 一般に解像度が高い機材は寒色系であることが多く、熱気や躍動感とは反対の方向になる。また高解像度な機器になるほど音が細く、低域ではなく高域に重心が移る。これまたファンクやR&Bには合わない。私にとって解像度の高さって、あんまり意味がないのだ。

■高解像度なお寺の鐘のネを聴くのもアリだけど

 オーディオの楽しみ方は、人間の主観の数だけ存在する。だからどこに喜びを見出すかは人それぞれだ。お寺の鐘が鳴る音を高解像度の機材で聴き、楽しむ人がいてもおかしくはない。またそもそも音には興味がなく、メカの構造や組み立てることそのもの、あるいは音が出る技術的なしくみに知的好奇心を満たされる人もいるだろう。だから嗜好の話はここでは置く。

 だけど「解像度が高い」とさえ言えばすべてを説明し切った気になる風潮って、どうなんだろう。オーディオの楽しみ方が人それぞれなのと同じで、別に解像度だけが機器の優劣を決めるわけじゃないと思うけどね、私は。

tag : SENNHEISERHD650HD25-1IIGRADOSR325iiPodER-4SDYNAUDIO

ESOTERIC SA-10 vs DENON DCD-SA1、実売30万対決のゆくえは?

ESOTERIC SA-10
ESOTERIC SA-10

■デジタルだからCDプレーヤーなんてどれでも同じ?

 ESOTERIC SA-10と、DENON DCD-SA1を比較試聴した。アンプはMcIntosh MA6300、スピーカーはATC SCM19を組み合わせた。

 先にDCD-SA1を聴いたが、SA-10に替えると、同じ「CDプレイヤー」という名称がついた装置とは思えないくらいちがいがあって笑った。「デジタルだからCDプレーヤーなんてどれでも同じだ」などという人もいるが、あきらかなデマだ。

 実はあとでアンプもLUXMAN L-590AIIに替えてみた。だが少なくとも私の耳には、アンプの変更よりCDプレーヤーのちがいの方が同等かむしろ大きく感じた。ひょっとしたらそれだけマッキンとラックスの音色が近い(同じ暖色系)、ってことなのかもしれないが。

DENON DCD-SA1
DENON DCD-SA1

SA-10は細身でエッジの利いたシャープな音

 SA-10はESOTERICらしく、細身でエッジの利いたシャープな音だ。一方のDCD-SA1は対照的に、DENONっぽくムッチリ濃厚で丸めだった。

 SA-10はハイエンドの入り口を感じさせる音で、繊細な表現が得意だ。音像をクッキリ描き出す。ベースの音が「表面」まで見える感じだ。かたやDCD-SA1はDENONのラインナップの中では細やかな方だが、それでもやはりDENONらしいエネルギー感が印象的だった。

 DCD-SA1のほうが力感があるから、パッと聴いた感じでは引き込まれる。だが比較するとSA-10のメリハリの利いた音も魅力的で、結局は好みの問題だ。

 DCD-SA1にはロックやR&B、アメリカ系のジャズが似合う。一方のSA-10はクラシックや高音質系フュージョンのほか、ヨーロピアン・ジャズや繊細な現代音楽などを聴いてみたい気がした。

tag : ESOTERICSA-10DENONDCD-SA1McIntoshMA6300ATCSCM19L-590AII

ARCAM A70、人生をレイドバックしたいあなたに

ARCAM A70

■ELAC BS203.2を小粋に鳴らす

 輸入代理店だったDENONが取扱いをやめた英ARCAMブランドだが、通りすがりの家電量販店で現品処分のARCAM A70ELAC BS203.2を小粋に鳴らしていた。CDプレイヤーはARCAM CD192T

 ARCAMは1972年、英ケンブリッジで「アンプリフィケーション&レコーディング」として設立された老舗だ。ARCAMのブランド名は1983年以来、20年以上使われている。イギリス本国では日本におけるDENON以上にメジャーな存在である。

 ただしARCAM A70は解像度が高いわけでもなく、駆動力やスピードが特段優れてるわけでもない。たぶんマニアから見ればスペック的には何の変哲もないアンプだ。

 だけど音にはキレと腰があり、濃厚なコクもある。暖かく柔らかい音色で聴き疲れしないし、筐体は小振りで扱いやすい。そして何より聴き手の心を浮かせる熱さがある。音楽を楽しむ手段としてのオーディオを体現したかのようなアンプである。そんな位置づけが我が家のATOLLとかぶるので、なんだか親近感がわく。

 またしっかり音の芯もあり、見かけたその日は低音がボンつきがちなELACをキリリとハンドリングしていた。スピーカーがELACなのにずいぶん低域が締まっているので、最初は「どうせバスレフポートにスポンジを詰めてるんだろうな」と思った。

 確認すると案の定、確かに詰めていたのだが(笑)、でも試しにスポンジを引っこ抜いても低音は滲まなかった。あんなに低域がよくコントロールされたELACを聴いたのは初めてだ。大英帝国あなどりがたし、である。

 たぶんいまARCAMは、全国で安値・現品処分の嵐だろうからチャンスだ。サポートはDENONが継続しているのでご心配なく。

【関連ニュース】

デノンラボが営業活動を終了――ARCAMの取扱いを停止

tag : ARCAMA70CD192TDENONATOLL

Nmode X-PM1に合うスピーカーと音楽アルバムは?

Nmode_X-PM1_2

■ベストテン形式で見るNmode的音楽世界とスピーカー

 前回の記事では、「Nmodeは好みじゃない」などと一方的に締めくくった。いや正確にいえば最後の2段落以外は客観的に分析しているのだが、最後の最後でホンネが出た。というか個人ブログなんだから「オレ色」を出さなきゃ意味がない。

 とはいえこのまま放置するのも気が引ける。せっかく試聴したんだから、Nmodeが気に入って買う人の役に立つことをもっと書こう。そう考えて今回のエントリを立てた次第だ。

 このブログは音楽を聴くための手段としてのオーディオを標榜している。そこで今回はNmodeのデジタルアンプ・X-PM1で、おいしく聴ける音楽アルバムをベストテン形式であげてみる。各アルバムはリンク先で試聴できるので、ぜひ聴いてみてほしい。

 またそれぞれのアルバムを聴くのにいいスピーカーも、チョイスした。スピーカーは実売10万円~20万円台クラスとし、音質や得意ジャンルを考えた上で、各アルバムごとに合うものを選んだ。では行ってみよう。

【第1位】 ヨーロピアン・ジャズのビアノトリオは合うはずだ

 Nmodeの澄み切った色付けのなさは、ピアノトリオの枯れた味わいをうまく引き出す。特にビル・エヴァンス風味のデリケートなタッチが似合うはずだ。それならドイツのジャズ・ピアニスト、ウォルター・ランゲ・トリオの「Smile」(1997年)がおすすめである。

 このアルバムはメロディメーカーとしても才能を発揮した名俳優、チャールズ・チャップリンが作曲した映画音楽のカバー集だ。どの曲もうっとりするような美しいメロディーで楽しめる。

 特にアルバム冒頭の同名曲「Smile」がいい。消え入りそうなピアノの儚いタッチがNmodeにドンピシャだ。組み合わせるスピーカーは、ヨーロッパ的で繊細な表現が得意なDYNAUDIO FOCUS110をおすすめしたい。

DYNAUDIO FOCUS110
※DYNAUDIO FOCUS110

【第2位】 ビル・エヴァンス「Moonbeams」(1962年)

 第1位で述べた論理が通用するなら、当然、本家もいけるはずだ。特にここではNmodeにマッチしそうな、エヴァンスの気だるいバラード・アルバムを推そう。

Moonbeams
※ビル・エヴァンス「Moonbeams」

 スピーカーはDALI MenuetⅡQUAD 11L2で聴きたい。1曲目「Re: Person I Knew」の物憂げなイントロが流れた瞬間、鳥肌が立つのはまちがいない。

【第3位】 ジョアン・ジルベルト「Aguas de Marco (三月の水)」(1973年)

 ボサノヴァを生み出した伝説の人、ジョアン・ジルベルトの名盤だ。アコースティック・ギターとヴォーカル、パーカッションだけのシンプルな構成で、みずみずしくも美しい世界を構築している。部屋でお香を焚きながら、NmodeとELAC BS243の組み合わせで聴いたら悟りを開くこと請け合いだ。

【第4位】 リッキー・リー・ジョーンズ「Flying Cowboys」(1989年)

 リッキーの作品は音質がよく、高解像度ハイスピードなNmodeの実力を引き出すのにぴったり。特に透明感漂うこのアルバムは、Nmodeのテイストにしっくりくる。スピーカーは中音域(ヴォーカル)がぐいぐい前に出るB&W CM5を推したい。

B&W_CM5
※B&W CM5

【第5位】 アレサ・フランクリン「This Girl's in Love with You」(1970年)

 実はNmodeって、アレサが合うのは試聴時に確認している。このアルバムはザ・バンドの「The Weight」やビートルズ「Let It Be」など、全10曲中8曲がカバー曲。アレサの入門編としてもGoodだ。

 ミディアム~スロー・ナンバーがほとんどだから、静寂感が身上のNmodeにはもってこい。特に気絶するほど美しいスローバラードの9曲目「Call Me」がいい。同曲は1970年2月~4月にかけ、アメリカのR&Bチャートで1位をマークしている。

 ちなみにこのアルバムのリズムセクションは全編、マッスル・ショールズのリズム隊、デヴィッド・フッド(Bass)とロジャー・ホーキンス (Drums)である。

 スピーカーは熱いヴォーカルが楽しめるPMC TB2iがイチ押しだ。TB2iは低域が膨らむが、アンプがX-PM1ならしっかり締めてくれるだろう。

【第6位】 パット・メセニー「Beyond the Missouri Sky」(1997年)

 パット・メセニーのアコースティック・ギターに、チャーリー・ヘイデンのベースがからむデュオ作品。このアルバムからあふれ出る叙情性と静寂感は圧巻だ。まさにNmodeの世界である。

Beyond the Missouri Sky
※パット・メセニー「Beyond the Missouri Sky」
 
 以前、北海道を旅したとき、このアルバムを聴きながら大自然の中を走り回った。地平線の見える雄大な北の大地に、あれほどハマるBGMはなかった。スピーカーはナチュラルでフラット志向のFOSTEX G1300を選びたい。アコースティック・ギターの美しさや生の音色をうまく再現してくれるはずだ。

【第7位】 ハービー・ハンコック「River: The Joni Letters」(2007年)

 ヴォーカリストとしてノラ・ジョーンズやティナ・ターナー、ジョニ・ミッチェルらをフィーチャーしておきながら、バッキングなんて一切考えてない(笑)ハンコックのテンションきかせまくりのピアノが聴き物だ。

 ノラ・ジョーンズのスモーキー・ヴォイスもいいが、イギリスの新鋭シンガー・ソングライター、コリーヌ・ベイリー・レイ(4曲目)のキュートなヴォーカルが最高である。スピーカーは中高域にハリがあり、ヴォーカルが元気に聴けるMONITOR AUDIO GS10がおすすめだ。

【第8位】 カサンドラ・ウィルソン「Rendezvous」(1997年)

 ジャズピアニスト、ジャッキー・テラソンとのコラボレーション作品である。テラソンは歌物だけに抑えて弾いているが、その抑え方が鬼気迫る凄まじさだ。

 またアルバム全編を通し、テラソンのアレンジがすばらしい。空間に漂うコンガやベース、その波間から浮き上がってくるようなピアノとヴォーカルが鮮烈だ。この静謐感、物憂さはNmodeのおハコだろう。

 沈み込むようなベースの低音と、カサンドラの太い声をしっかり再現してくれるスピーカーとして、密度感の高いATC SCM19を選びたい。

【第9位】 キース・ジャレット「The Koln Concert」(1975年)

 学生のときジャズ喫茶で「ニューアルバム」としてこれを聴き、椅子から立ち上がれなくなった思い出がある。人間はこれほど美しいピアノを弾けるのか? ECMレーベルの代表作といっていい。ピアノの中高域を鮮やかに描き出すKRIPTON KX-3Pなら、いい仕事をしてくれそうだ。

【第10位】 ECM系のあれこれ

 ECM(Editions of Contemporary Music)とは、プロデューサーのマンフレート・アイヒャーが1969年にミュンヘンで設立したレコード会社だ。ノルウエー出身のサックス奏者、ヤン・ガルバレクや、キース・ジャレット、チック・コリア、スティーヴ・ライヒなどの作品を輩出している。チック・コリアの名作「Return To Forever」も、ECMから1972年にリリースされたものだ。

Return To Forever
※チック・コリアの名作「Return To Forever」

 ECMの作品群はジャケットのアートディレクションも含め、独特の美意識で統一されている。どのアルバムにも透明感や耽美性、寂寥感が満ちあふれてる。Nmodeのテイストそのものである。

 スピーカーにはECM的なみずみずしさがあり、どんなジャンルもこなしてくれるPIEGA TS3を推したい。

 なおECMのおすすめ作品や、レーベルの解説などをわかりやすくまとめたサイトがある。興味のある方は以下をご参考に。

『迷宮世界の入り口で ── ECMレーベル案内』(多田雅範・堀内宏公)
 ※初出:CDジャーナル2003年6月号

 また次のブログはECM作品をカテゴリーで特集しており、参考になる。記事中に紹介されている各アルバムは、画面上でワンタッチ試聴できる。ぜひ聴いてみてほしい。

『迫害者サウロのジャズ日誌』

 私はヤン・ガルバレク「Madar」と、ゲイリー・バートン&チック・コリアの「Crystal Silence」がツボにきた。もちろんどちらもNmodeにもってこいであることはいうまでもない。

【関連記事】 ※前回のエントリ

『Nmode X-PM1、5月の澄み渡る空のように』

tag : NmodeFOCUS110BS243CM5TB2iG1300GS10SCM19KX-3PTS3

Nmode X-PM1、5月の澄み渡る空のように

Nmode_X-PM1

■すっきりフラットな涼やかさ

 5月の澄み切った空のような空間が広がっている。そこには一点の曇りも滲みもない。Nmodeのデジタルアンプ、X-PM1が生み出す音の空間はこんなふうだ。ハッキリすっきり、無色透明で涼やかなフラット志向である。

 Nmodeは、SHARPでSX100などの1bitアンプを生んだ技術者が立ち上げたブランドだ。試聴時には同じNmodeのCDプレイヤー・X-CD1、またスピーカーはDYNAUDIO FOCUS110を組み合わせた。

 まず意外だったのは、予想したより力感がある点だ。これはソースの雰囲気を忠実に再現しているからだろうか。ただし作ったような躍動感はなく、ひたすら客観的な描写に徹する感じだ。

■低域の制動力にぶったまげる

 さっそく意地悪し、低域の再生がむずかしい曲を3連発で選んでみた。(1)John Scofield「Busted」(2)Brad Mehldau「Los Angeles」(3)Jesse Ed Davis「Reno Street Incident」である。

(1)はLarry GoldingsがHammond B3オルガンでベースラインを弾いており、重低音に近いこの音を再生させると破綻する機材が多い。(2)はLarry Grenadierのベースが太すぎるため、音がブリブリに割れることがある。

 またアンプに駆動力がなければ、(3)の思いっきりタメたAlan Whiteのバスドラは「もたる」ようにしか再生できない。いままでいろんなオーディオ機器を試聴したが、この3曲の前には死屍累々だった。

 ところがぎっちょん、X-PM1は、いともあっさりこれら3曲を料理した。どこにもユルイところがない。正確に、あくまで正確に、譜面通りに演奏しました――そんな感じだ。

 この駆動力と制動力は大したものだ。特に低域の制動力には目を見張った。余計な響きを許さないから、いい意味で非常に「辛い音」になる。余分な甘さがまるでない。ただしそれがいいかどうかは、好みの問題だったりするのだが。

■シンバルは左、スネアはセンター、ハイハットは右寄りに定位した

 では音場と定位はどんな様子だろうか? ドイツのジャズ・ピアニスト、Walter Lang Trioのアルバム「Smile」では、ピアノは右寄り、ベースは中央に鎮座した。

 一方、ドラムは左右にワイドに広がっており、シンバルは向かって左寄り、スネアはセンター、ハイハットは中央やや右寄りだ。

 それぞれの楽器が団子にならず、きれいに分離して聴こえている。

 ところで気になるのは、同じフラット系のSOULNOTE da1.0、同sa1.0との比較だろう。FOCUS110を鳴らした感じでは、X-PM1da1.0sa1.0より駆動力、制動力とも上回る印象だ。

 しかしアンプの魅力は駆動力と制動力だけじゃない。沈着冷静に鳴るX-PM1に対し、da1.0のキャラは対照的だ。元気で押しが強いda1.0のほうが好きだ、って人もいるだろう。

 むしろ「淡々と精緻に描く」という意味に限れば、X-PM1はda1.0よりPRIMARE I21に近い感じを受けた。ただしPRIMARE I21には、X-PM1にない潤いや艶がある。また一見ひんやりした質感の向こうにほのかな「熱さ」も感じさせる。ゆえにあくまでX-PM1とは別物であることはいうまでもない。

【総評】 緻密な仕事をクールにこなすが「熱さ」はない

 あなたなら、X-PM1でどんな音楽を聴きますか? いや正直なところ、試聴のときにはかける楽曲に困ってしまった。フラットでクセがないからどんな音楽でもいけそうなのだが、試聴時に「うわぁ。このソースはハマってるわぁ」と感じた楽曲があんまりないのだ。

 スワンプの泥臭さは水と油だし、70年代のR&Bの熱さも合わない。私はクラシックを聴かないので当然CDは持ってないが、ひょっとしたらクラシックがドンピシャなのかもしれない。

 そのほか合うかなと思ったのは、パット・メセニーに代表されるような80年代以降の高音質系フュージョンだ。原音を忠実に再現するアンプだけに、古めのCDだと録音のアラが目立って楽しめないかもしれない。また打ち込み系はイケそうなのだが、私は打ち込みの音が嫌いで持ち合わせもないのでチェックできなかった。

 結局のところ、私はこの音に乗れなかったのだ。きわめて主観的な言い方になるが、「ふと気がつくとカラダでリズムを取っていた」というのがない。熱くさせてくれないし、感情をゆさぶってもこなかった。

 彼はクールに緻密な仕事をこなしていたが、どうやら私は友だちにはなれそうにない。

【関連記事】

『Nmode X-PM1に合うスピーカーと音楽アルバムは?』

tag : NmodeX-PM1SOULNOTEDYNAUDIOFOCUS110da1.0sa1.0

スカンジナビア・デザインのtangentっておしゃれだ

EVO-E5
■3点セットで15万円以内の実力やいかに?

「こんな手軽な値段なのにいい音がする」

 戦略的な価格設定で話題のtangentは、1996年にイギリスの技術者が作ったブランドだ。その後、デンマークのEltax社がブランドを引き継ぎ、音だけでなくおしゃれなデザインも注目されている。いわゆる「スカンジナビア・デザイン」である。

 どうです? いかにも女性が好みそうなテイストでしょう。この製品で女性たちがオーディオに興味をもてば、新しいマーケットを育てることにもなる。常連客ばかりで停滞気味のオーディオ業界に風穴を開けてくれそうだ。

 で、ずっと気になっていたのだが、やっと聴く機会に恵まれた。ただし背後でアースウインド・アンド・ファイアの爆音が鳴り響く家電量販店の店頭だから、そのぶんは割り引いて読んでほしい(笑)。

 試聴したのはAMP-50(アンプ)とCDP-50(CDプレーヤー)、それにEVO-E5(スピーカー)の組み合わせだ。すべてtangentブランドであり、総額15万円以内のゾーンである。
AMP-50

■シンバルのリアリティに目を見張る

 一聴して耳に飛び込んできたのは、シンバルの響きだった。tangentセットは音像を明確に出してくる。アコギの切れやピアノのアタック感、シンバルの密度、スネアとタムの張り。ウッドベースもちゃんとエッジが利いている。

 3点セットでバラせないから、この楽器の実在感はアンプの力かCDプレーヤーか、はたまたスピーカーの色なのかがわからない(たぶんスピーカーだろう)。だがともかくセットで聴くと上記の通りだ。

 このクラスのオーディオ機器では、特にシンバルなんぞは「チャリ~ン」とおもちゃみたいな音がしがちだ。だがtangentで聴くドラムのブラッシングやシンバルのリアリティは、同クラスでは頭ひとつ抜けているなと感じさせた。

CDP-50

■ピアノトリオからスワンプまで何でもこい

 すっかりコーフンし、店頭で1時間位あれこれソースをかけてみた。するといかにもヨーロッパの機材らしく、ヨーロピアン・ジャズのピアノトリオのリリカルで枯れた味わいがいい感じだ。

「ふむ。こういう音作りか」

 そう思いつつ、今度は意地悪して70年代のコテコテのアメリカン・スワンプを押し付けてみた。するとまあリズムセクションがハネるわ、ハネるわ。えらい躍動感だ。

「いったい君は何が得意なんだ?」

 思わずそう聞き返してみたくなった。

■Entry Siとの対決の結果は?

 やばいぞこれは。もう時間オーバーだ。だけどすぐ脇には5万円以内のスピーカーがずらりと並んでいる。みんなtangent EVO-E5(スピーカー)と似たようなクラスだ。こりゃ聞きくらべなきゃソンじゃないか?

 これらのスピーカーに固定で繋がっているのは、DENON PMA-1500AEとDCD-1500AEだ。手元の切り替え器で、複数のスピーカーを客が自由に比較試聴できるしくみである。で、まず最初に前から気になっていたALR/JORDAN Entry Siとくらべてみた。

 なんでもEntry Siは、オーディオ専門誌では入門クラスの名器とされているらしい。実際、ネットで検索してもよくひっかかる。ところが両者をくらべてみると、明らかにtangent EVO-E5のほうが好みだった。冒頭で書いたように楽器の響きがよく通るのだ。

 ただEntry Siの名誉のために書き添えると、ひとつはEntry Siが柔らかめの音を出すことにも一因がある。ゆえにうるさい家電量販店の店頭では、エッジが利いたtangentのほうが聴き取りやすい。すると当然、アピール度もちがってくる。

 しかもEntry Siの繋がっているアンプとCDプレーヤーは、これまた「クリアさ」とは対極にある音作りのDENON PMA-1500AEとDCD-1500AEなのだ。おかげでEntry Siの柔らかさはますます加速され、騒音だらけの家電量販店ではえらく不利になってしまう……。

 てなことを考えながら、ひとしきりカチャカチャと切り替え器をいじり倒した。都合、10モデルほどの5万円以内のスピーカーを比較試聴しただろうか。

 テストが終わる頃には意識が朦朧とし、倒れそうになっていたのは事実である。だがうすぼんやりした頭の中で、こんなフレーズが何度も渦巻いていた。

「おい。ひょっとしてtangentがダンチじゃないか?」

tag : tangentAMP-50CDP-50EVO-E5

プロフィール

Dyna-udia

Author:Dyna-udia
DYNAUDIOというスピーカーに出会ったせいで、こんなブログをやってます。

SP:Dynaudio Confidence C1 platinum,
Pre AMP:Viola Cadenza,
Power AMP:Viola Symphony,
DAC:SOULNOTE dc1.0,
CDT:SOULNOTE sc1.0

最新記事
カテゴリ
DAC (4)
メールフォーム
※オーディオ購入の個別相談には応じかねます。ご了承下さい。

あなたの名前:
あなたのメールアドレス:
件名:
本文:

全記事一覧・表示リンク

全ての記事を表示する

ブログ内検索
※このブログの記事の中から検索します
月別アーカイブ
最新トラックバック
RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QRコード