アレサ・フランクリンを躍らせたPMC TB2i

■BBCのエンジニアが創った英国流PMCサウンド
前回紹介したB&W CM5と今回のPMC TB2iを聴き比べると、自分の好みがよくわかる。明らかに私はTB2iのように暖かみがあり、丸めの音が好きなようだ。リトマス試験紙みたいなスピーカーである。
PMC(Professional Monitor Company)は比較的新しい会社なので、ちと説明しておこう。設立されたのは1990年。当時、BBC(英国国営放送局)の技術部門にいた2人のエンジニア、故エイドリアン・ローダーとピーター・トーマスが作った会社だ。
彼らの理想は社名の通り、プロ向けのモニターを作ることだった。で、コンパクトでありながら深い低域再生を可能にする、トランスミッションライン方式をキャビネット構造に採用した。
そして第一号のフラッグシップモデル「BB5」は、当時彼らが働いていたBBCのMaida Vale Musicスタジオに導入された。その後もPMCの製品は、Teldexスタジオ(独)やDECCA(英)、Emil Berlinerスタジオ(独)などのレコーディング環境にひと役買っている。
■バスレフより1オクターブ広い低域が出るトランスミッション
PMCによればトランスミッションライン方式は、普通のバスレフ型と同じキャビネットサイズでも、バスレフより1オクターブも広い低域が出せるらしい。楽器をやる人ならわかると思うが、1オクターブっていえばえらいちがいだ。
じゃあ実際にはどうなんだろう? TB2iを聴けば一目瞭然だ。低域がふくよかでスケール感があり、だけどギリギリ破綻はしていない。ただベースが甘いので、個人的にはもうちょい締まっててくれたほうが好みだが。
というのも音が丸くて楽器のアタック感があまりなく、低域のスピードもやや遅いのだ。それより厚みや雰囲気で聴かせるスピーカーである。まあこのへんは好みの問題だろう。
■70年代のリトル・フィートががっつり合う
とはいえTB2iを聴いていると、そんな細かいことはどうでもよくなってくる。とにかくホットなスピーカーなのだ。ナーバスなCM5とは好対照って感じです、ハイ。
試聴時にはどんなCDを選ぶか迷うものだが、TB2iには持参したソースがばっちり合った。ロックやジャズ、R&Bがホントに熱く鳴る。特にヴォーカルがすごくいい。
70年代のアレサ・フランクリンがまあハマること、ハマること。聴いてるうちに楽しくなり、思わず何曲もかけてしまった(店員さん、すんません)。えらく主観的で感覚的な表現になるが、古い音源のコクみたいなものが引き出される感じだ。
フェンダー・プレシジョンベースのオールドのよさ、みたいな。
同じく70年代のリトル・フィートもばっちりだった。Kenny Gradney(b)とRichard Hayward(drs)のタメまくったノリがたっぷり堪能できた。
低音が出る暖色系のスピーカーには、古いロックやR&Bがよく似合う。そんなことを思い知らされた出会いだった。